(一社)日本鉄鋼協会 評価・分析・解析部会 | Technical Devision of Process Evaluation & Material Characterization

評価・分析・解析部会

広報

2024.05.12 日本鉄鋼協会第189回春季講演大会開催報告

去る2025年3月8日から10日にかけて日本鉄鋼協会第189回春季講演大会が東京都立大学にて開催された。南大沢駅の改札を出ておしゃれなショッピング街を抜けるとすぐに会場に到着した。駅から会場までの距離が近いことは、参加者にとってうれしい限りである。講演会場は14会場であり(うち1会場は金属学会との共同セッション)、多くの学術講演が活発に行われていることが伺われる。

評価・分析・解析部門に関わる研究発表も多く行われた。簡潔ではあるが紹介させていただきたい。

1. 討論会「最先端技術と溶液化学との融合が切り開く新世代鉄鋼分析」(3月9日)
 この討論会は宇大上原伸夫氏が代表を務める研究会「高度な技能に基づく鉄鋼分析操作の化学検証」の研究成果の発表が多くみられた。JISに規定される湿式分析法は今なお現場で実践されているものの、分析スキルの伝承は熟練技術者の減少に伴い困難を極めている。本研究会では、JISの分析法の化学的背景を最新の分析手法により「言語化」することで、その技能継承の一助となることを目的としている。当日の講演題目は以下の通りであった。

  • 「吸光光度法による鉄鋼中のタングステン測定法の化学検証」(徳島大 水口仁志氏)
  • 「白色LED光源と色センサーを用いる簡易な光電比色計の開発と鉄鋼試料の滴定分析への応用」(金沢工大 鈴木保任氏)
  • 「鉄鋼材料の評価法における画像解析の利用可能性」(宇大 稲川有徳氏)
  • 「鉄分離硫酸バリウム重量法における沈殿形成、洗浄工程に影響する因子の検討」(宇大 相馬海輝氏)
  • 「鉄鋼湿式分析のための重量分析法の基盤をなす沈澱生成反応に影響する因子」(宇大 上原伸夫氏)
  • 「鉄鋼分析における熟練技術者が持つ高度な技能は化学でどこまで説明できるのか」(宇大 上原伸夫氏)

2. 一般講演(3月9日)
 評価・分析・解析部門に関わるセッションは全て3月9日に行われた。「セッションは元素分析/析出物、介在物分析」と「結晶構造解析」の二つであり、講演件数は計6件であった。講演題目は以下の通りである。

    元素分析/析出物、介在物分析(座長:菅野聡氏 [日本製鉄])
  • 「鉄鋼分析の迅速化ならびに鉄鋼製品の特性向上要因解明に関わる技術開発」(JFE 石田智治氏、西山記念賞受賞講演・110周年記念招待講演)
  • 「アルゴンガス融解-高分解能質量分析法による鋼材中窒素定量法の開発」(日本製鉄 藤部康弘氏)
  • 「X線小角散乱法を用いたばね鋼におけるε炭化物の形態解析」(日発 熊井慎太郎氏)
    結晶構造解析(座長:藤部康弘氏 [日本製鉄])
  • 「中性子計測の鉄鋼研究への活用」(茨城大 友田陽氏、110周年記念招待講演)
  • 「高純度鉄の作製プロセスと各種特性の多面的評価」(東北大 鈴木茂氏)
  • 「ステンレス鋼のねじり変形中のX線転位密度解析」(日本製鉄 菅野聡氏)
  • 「Fe-Co基合金板材における残留応力とミクロ組織との関連性の評価」(東北大 鈴木茂氏)

 また、3月9日には学生ポスターセッションが行われ、64件の発表があった。会場は学生諸氏の研究に対する熱い想いで熱気にあふれていた。評価・分析・解析部門からの3件の発表があった。講演題目は以下の通りである。

  • 「中性子を応用したホウ素の精密な分析」(九大 M1 池田瑞)
  • 「鉄鋼中のイオウ分析公定法, 鉄分離硫酸バリウム重量法, の精確さに影響を及ぼす因子」(宇大 M1 相馬海輝)
  • 「時効処理を施した窒素添加オーステナイト系ステンレス鋼における析出物と硬度の関係」(九大 M1 原子大輝)

中でも、九大の池田瑞氏が優秀賞を、宇大の相馬海輝氏が奨励賞を受賞したことは特筆すべき点である。今後の研究展開を大いに期待する。

 2025年秋季年会は2025年9月17日から19日の日程で北海道大学札幌キャンパスにて開催される。部門所属者各位におかれては、奮ってご参加いただき、活発な議論と研究者間の交流を深めていただきたい。

2025.5.12 第189回春季講演大会学生ポスターセッション受賞者の声

第189回春季講演大会学生ポスター発表(2025年3月9日開催)において、評価・分析・解析部会からは以下の学生さんが優秀賞および奨励賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞者の方からの声を掲載しております。

優秀賞

講演番号 氏名 所属 題目
PS-62 池田 瑞 九州大学 中性子を応用したホウ素の精密な分析

奨励賞

講演番号 氏名 所属 題目
PS-63 相馬 海輝 宇都宮大学 鉄鋼中のイオウ分析公定法, 鉄分離硫酸バリウム重量法, の精確さに影響を及ぼす因子

■ 受賞者の声(年次は受賞時の年次です)

・池田 瑞様(九州大学 修士1年)

日本鉄鋼協会第189回秋季講演大会学生ポスターセッションにおいて「中性子を応用したホウ素の精密な分析」という題目で発表を行った。

ホウ素は様々な材料に用いられ、その物性を変化させる重要な元素である一方、ホウ素の定量分析は汎用分析法(EPMA-EDS, EPMA-WDS, XRF-WDS)では難しいとされている。しかし、定量分析がどの程度難しいのかという分析不確かさは十分評価されていないのが現状である。そのため私の研究では、汎用分析法の分析不確かさを定量的に評価することを目的とした。研究の流れとしては、まず、ホウ素を含む試料を作製した。その後、ホウ素を高確度に定量できるPGA(即発ガンマ線分析)を用いて試料中ホウ素濃度を正確に決定した。また、その試料を汎用分析法で定量分析し、PGAで決定したホウ素濃度と汎用分析法で定量したホウ素濃度を比較することで、汎用分析法の分析不確かさを定量的に評価した。

分析の結果、EPMA-EDSを用いてホウ化物を定量した場合や、XRF-WDSでppmオーダーのホウ素を定量した場合では、ホウ素の定性分析はできたが、ホウ素濃度の大小が異なる試料を複数定量しても、それぞれのホウ素濃度の大小比較は困難であった。一方、EPMA-WDSでホウ化物を定量した場合や、XRF-WDSでホウ化物やガラスを定量した場合では、試料ごとのホウ素濃度の大小比較は可能であったが、実際の定量値はPGAで決定したホウ素濃度と一致しなかった。このように、汎用分析法の分析確度は低いことが定量的に明らかになった。今後は、汎用分析法での定量に用いられている補正法に着目し、汎用分析法の高確度化を目指して研究を行う。

ポスター発表では、謙虚かつ丁寧に、自分の発表したいことを相手に伝えることを意識した。特に、ホウ素という鉄鋼分野ではメジャーではない元素に興味を持っていただくことができるよう、ホウ素鋼やモールドフラックスなどを例に挙げ、研究に興味を持っていただくことを意識した。発表を聞いてくださった方々からは、非常に参考になる意見をいただくことができた。しかし、うまく説明ができなかった点や、私の知識不足によって議論できなかった点もあった。今後はポスター発表で得た経験やアドバイスをもとに、私の研究をさらに発展させていきたい。

最後に、日頃からご指導ご鞭撻を賜っております中島邦彦先生、齊藤敬高先生、墨田岳大先生をはじめ、ご尽力いただきました共同発表者の皆様に厚くお礼申し上げます。

・相馬 海輝様(宇都宮大学 修士1年)

令和7年3月9日に開催された日本鉄鋼協会第189回春季学生ポスターセッションにて、「鉄鋼中のイオウ分析公定法, ―鉄分離硫酸バリウム重量法, の精確さに影響を及ぼす因子」という題目で発表し、奨励賞をいただいた。

イオウは鋼の性能を低下させる元素として知られている。鉄鋼中のイオウは熱間脆性、すなわち赤熱状態での脆化を引き起こす。このため、鉄鋼材料のイオウ含有量は厳密に制御する必要がある。鉄鋼中のイオウの分析法として日本産業規格(JIS)では、鉄分離硫酸バリウム重量法を規定しており、これが日本では公定法とみなされている。鉄分離硫酸バリウム重量法において精確な分析値を得るためには、硫酸バリウムを定量的に沈殿させ、回収することが不可欠となっている。沈殿形成過程における硫酸バリウムの溶解が回収率の低下につながるため、硫酸バリウムの沈殿形成プロセスを制御する因子について詳細に検討した。

最初に、共存元素の影響を検討したところ、共存する元素のうちクロム、タングステン、マンガンが硫酸バリウムの沈殿形成を妨害することが明らかとなった。これらの元素のうちマンガンについては錯化剤を用いることで、その妨害を抑制できることを明らかにした。

次に、沈殿形成の開始時と熟成中における液温について検討した。その結果、沈殿が形成し始める段階においての液温を高めることにより、単位結晶のサイズを大きくすることに成功し、結晶の成長が完了するまでの時間を短縮できることを明らかにした。

本ポスター発表では、聴講される方が実験操作の全体像をイメージしやすいように鉄分離硫酸バリウム重量法の概略図を作成した。結果を説明する際には、それぞれの実験が全体のどの部分を検討しているのかを都度明示することにより、来聴いただいたより多くの方に理解していただけるよう努めた。また、ポスター発表に参加させていただいたことで、近接する分野を研究している方々と議論を深めることができ、大変有意義な時間を過ごすことができた。

最後に、このような素晴らしい賞を授与してくださった日本鉄鋼協会の関係者の皆様、そして日頃よりご指導いただいている上原伸夫教授、稲川有徳准教授に、心より感謝申し上げる。

2025.03.24 研究会紹介

茨城大学学術研究院応用理工学野物質科学工学領域
材料熱物性計測プロセス研究室(西 剛史)

私が2015年4月に茨城大学に着任してから、当研究室が発足して10年が経過しました。私は2004年3月に東北大学の早稲田嘉夫先生の研究室にて博士(工学)を取得した後、日本原子力研究開発機構にて11年間、新型燃料物質の物性測定を中心に研究に従事してきました。大学に着任した当初は、大学生の指導ができるか不安に思うこともありましたが、2025年3月時点で当研究室から41名の学生が社会人となりました。最近は本学に凱旋してリクルート活動を行うなど、活躍しているOB・OGが増えてきており、大変嬉しく思っています。

図1 当研究室で所有している主な装置。左上から時計回りに、表面加熱・表面検出レーザフラッシュ熱浸透率測定装置、熱物性顕微鏡、るつぼ回転粘度計、温度変調型示差走査熱量計。

当研究室では、図1に示すように、①るつぼ回転粘度計を用いた溶融金属および溶融塩化物の粘度測定、②表面加熱・表面検出レーザフラッシュ法を用いたケイ酸塩融体の熱浸透率測定、③熱物性顕微鏡を用いた熱電材料候補材、宇宙の砂、ガラス・金属基板上のエポキシ樹脂の熱浸透率測定の3つの研究を軸とし、ユニークな手法で実用材料の熱物性を測定し、材料プロセスに役立つ物性取得に取り組んでいます。最近は、オール実測値による熱伝導率評価を目指して、温度変調型示差走査熱量計を用いた比熱測定の研究にも着手しています。現在も共同研究者と共に行っていますが、局所構造や電子構造の観点から熱物性を検証することも、日本鉄鋼協会評価・分析・解析部会を通じて強化したいと考えています。

図2 研究室のイベントの一コマ。

研究室の運営ですが、2~3週間に1回、進捗状況を確認するためのミーティングを①~③の研究テーマで班分けして実施しています。また、他社・他大学の共同研究者と対面またはオンライン形式でミーティングを実施し、月1回のペースで意見交換を行っています。学部4年生は卒業研究でまとめた内容を日本鉄鋼協会、日本金属学会のポスターセッションにて発表し、大学院生は日本熱物性シンポジウム、日本実験力学会、日本原子力学会も含めて口頭発表、ならびに一部の大学院生は論文執筆にも意欲を示しています。ポスターセッションでは、最近は私の指導はほどほどに、研究室の先輩にいろいろと自主的にアドバイスを聞いており、毎年コンスタントに優秀ポスター賞を受賞するようになってきました。研究室での研究生活が最高のアクティブラーニングになるように心掛けています。

実用材料に興味のある方、1500℃を超える高温での物性測定に興味のある方は、ぜひご一報いただけると幸いです。2024年度の研究室のメンバーは、博士課程が2名(うち社会人1名)、修士課程が8名、学部生が4名の計14名で構成されています。そのうち6名が女子学生であり、工学部の女子学生も増えてきたと実感しています。図2のように、学生さんの発案でイベントに参加することもしばしばです。

【連絡先】
茨城大学材料熱物性計測プロセス研究室(西研究室)西 剛史
E-mail: tsuyoshi.nishi.75@vc.ibaraki.ac.jp

2025.3.24 2024年度運営委員会報告

2024年度 第1回分析技術研究審議WG・運営委員会 合同会議(2024年4月)

1.研究会・フォーラム関連事項

(1) 研究会I「鉄鋼関連材料の非破壊・オンサイト分析法」について、活動終了報告と評価がなされた。

今宿主査(島根大)よりスライドをもとに最終報告があった。
基礎研究レベルではあるが論文等を含む成果は出ているとして評価された。
現場で使えるレベルとするためには産側も研究に参画してさらなる検討を進めることがコメントされた。

(2) 研究会I「高度な技能に基づく鉄鋼分析操作の化学検証」について、中間報告と第3年度活動計画がなされた。

上原主査(宇都宮大)よりスライドをもとに報告がなされた。
研究会の方向性と進捗は良好であり評価できる。具体的に結果をどう生かしていくかの検討をしてほしいとのコメントがなされ、次年度への継続が承認された。

(3) 次のフォーラムについて活動終了報告がなされた。

  • ・中性子を中心とした量子ビームによる鉄鋼内部の組織解析活用技術の検討(大竹座長/理研)
  • ・高温における最適な材料プロセス制御を目指した材料特性評価(西座長/茨城大)
  • ・鉄鋼関連材料の機能開発を志向した反応の探索と解析(江場座長/都市大)

(4) 次の継続フォーラムについて2023年度活動状況と2024年度活動計画が報告された。

  • ・スラグ新用途開発のための機能とその関連する材料分析技術の開発(高橋座長/都城高専)

(5) 次の新規フォーラムについて設立趣旨と2024年度活動計画が説明された。

  • ・多様な手法による鉄鋼材料中の微細組織解析(金子座長/九州大)
  • ・材料プロセスにおける物性評価と物性予測のアプロ―チ(西座長/茨城大)
  • ・接合・リサイクル技術へのフルパワー中性子線の活用(小泉座長/茨城大)

2.学術部門・学術部会関連事項

(1) 学術部会5年見直しへの対応

学術部会5年見直し対応状況と、2024年度実施計画が説明された。研究会の連携を通して、他部会との連携を深めることなどが示された。

(2) 研究会提案およびロードマップ、重点領域見直し

評価・分析・解析部会ロードマップ(2023年4月15日改定)および学術部会ロードマップにおける2025年度研究会設立の重点領域(2024年5月現在)の確認を行った。

2024年度 第2回分析技術研究審議WG・運営委員会 合同会議(2024年10月)

1.研究会・フォーラム関連事項

(1) 研究会I新規設立提案1件について説明があり、運営委員よりコメントがなされたあと審議を行い、部会として推薦することに決定した。

(2) フォーラムおよび自主フォーラムの新規募集について、従来の募集案内をベースに若手の応募を積極的に促すことなどを明示して、部会ホームページとISIJニュース(会員向けメーリングリスト)で配信することとなった。

(3) 研究会Iとフォーラムについて、2024年度上期活動報告と下期活動計画が示された。

研究会I「高度な技能に基づく鉄鋼分析操作の化学検証」(上原主査/宇都宮大)
フォーラム「スラグ新用途開発のための機能とその関連する材料分析技術の開発」(高橋座長/都城高専)
フォーラム「材料プロセスにおける物性評価と物性予測のアプロ―チ」(西座長/茨城大)
フォーラム「多様な手法による鉄鋼材料中の微細組織解析」(金子座長/九州大)
フォーラム「接合・リサイクル技術へのフルパワー中性子線の活用」(小泉座長/茨城大)

2.学術部門・学術部会関連事項

学術部会活動状況と、学術部会5年見直し(2020-2024年度)自己評価案について確認を行った。

2024年度 第3回運営委員会 (2025年1月)

1.研究会・フォーラム関連事項

(1) 2025年度発足を希望するフォーラム2件と自主フォーラム1件の活動内容に関して、新規設立提案書に基づき説明があり、承認された。

(2) 2025年度開始の研究会I・IIおよび鉄鋼協会研究PJ提案課題の採択状況とともに、鉄鋼協会第5期中期計画、助成制度の見直し、2026年度開始研究会Iの進め方等について事務局より説明があった。

2.講演大会ム関連事項

(1) 第189回(2025年春季)講演大会開催要領とその発表件数について報告がなされた。また、第190回(2025年秋季)講演大会開催までの参考スケジュール、今後の春秋講演大会開催日程について事務局より説明があった。

3.その他

(1) 国際会議関連
ICASI2025の開催について、出口実行委員長より進捗状況や日程の説明がなされた。


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