鉄鋼材料の高強度化に向けて、固溶炭素量の増加は手段の一つとして挙げられるが、実用化のためには接合性を改善する必要がある。特に中・高炭素鋼の溶融接合では溶融部および熱影響部において脆いマルテンサイトが生成し割れが発生するため、相変態温度以下での固相接合プロセスが望まれていた。

本論文では、著者らのグループが提案している固相抵抗スポット接合法を、従来の溶融を伴う抵抗スポット溶接では接合困難であった中炭素鋼（S45C）に適用し、得られた接合接手の界面組織と機械的特性を詳細に調査し、組織変化と接合原理の解明を試みている。印加圧力を増加させることで接合可能な温度を低下させることができ、高印加圧力下において変態温度以下の低温で接合可能であることや相変態が生じないことを実証している。また、接合プロセスを界面組織観察から検討し、塑性変形によって界面の酸化被膜を粉砕・排出することで新生面を接合させ、接合部において微細な動的再結晶粒が形成されることで強固な界面を形成する接合機構を提案している。

以上のように本論文の成果は自動車産業における超高強度鋼板のみならず多様な材料における新たな接合技術として展開できる可能性があり、工業的にも非常に価値が高い。よって本論文は俵論文賞にふさわしいと判断される。

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鋼の高清浄化を図る上で介在物の凝集合体は極めて重要な因子であり、介在物間に作用する凝集力の直接的測定が古くから望まれていた。先の論文で、著者の一人が溶鋼中においてAl₂O₃円柱間に作用する凝集力を直接測定する方法を考案し、空隙架橋力を起源とする凝集力に基づき凝集合体することを報告した。本論文では、前述した方法を用いてAl₂O₃以外の固体酸化物間に働く凝集力を酸素濃度が異なる溶鋼中で測定した。凝集に伴う自由エネルギー変化と凝集力がよく対応することを示すことで、酸化物の凝集性の違いを熱力学的視点から説明している点が高く評価される。加えて、凝集力は脱酸溶鋼で高く酸素濃度とともに減少することを踏まえ、求めた酸化物と溶鋼の界面における酸素の飽和過剰量が各酸化物の表面構造に基づく界面酸素濃度と良好な対応を示すことを明らかにした。このように熱力学と表面構造ならびに界面化学的な視点から論理的に考察されている点も高く評価される。さらに、流動を伴う実プロセスにおいて、脱酸溶鋼中では空隙架橋による凝集力が溶鋼中の外力に比べて支配的となり介在物の凝集が進行する。これに対し鋼中酸素濃度の高い条件では一旦凝集した介在物が溶鋼流により、再度、分離する可能性があることを力学的な視点から考察し実操業結果と対応する結果を示している。

以上のように、本論文で得られた知見は学術的にも技術的にも極めて高い価値を有しているだけでなく、介在物制御の指導原理を与えるものであり、本手法を使った新たな成果につながることが期待される。よって、俵論文賞にふさわしいと判断される。

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合金含有量の多い工具鋼の製造においては、鋼塊鋳造時における凝固速度の低下に伴いミクロ偏析によって粗大炭化物が生成し、鋼材特性が損なわれる懸念がある。また、凝固過程において発生するポロシティは、製品品質安定化の観点からその発生の予測と制御が重要となる。

本論文では、8%Crダイス鋼（Fe-1%C-8%Cr-2%Mo合金）を対象に、大型鋼塊の鋳造を想定した低冷却速度を含む幅広い引き抜き速度で一方向凝固実験を実施し、凝固条件（冷却速度、温度勾配、凝固速度）とミクロ組織との関連を実験およびNiyamaモデルを用いた解析によって明らかにした。デンドライトの特徴を定量的に捉えやすい一方向凝固実験とランダムサンプリング解析を組み合わせることにより、ミクロ偏析と共晶炭化物生成、ポロシティ発生の相関を調査した点に秀逸な工夫がある。また低冷却速度域での解析結果と既往知見との相違に注目し、凝固末期に共晶型の炭化物が生成する高合金鋼に対するNiyamaモデルの適用性を透過率の観点から詳細に論述した点も高く評価できる。

以上の成果は、特殊鋼のミクロ偏析や鋳造欠陥生成挙動の解明に資するものであり、技術上、学術上の両面において非常に価値があることから、本論文は俵論文賞にふさわしいと判断される。

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本論文は、転動疲労により生じる白色組織を伴うはく離現象のメカニズムを、詳細な組織観察、水素の影響調査、力学解析の組み合わせにより体系的に解明したものである。従来は曖昧であった白色組織形成およびき裂進展の順序や発生位置、力学的支配因子の理解に対し、本研究は二円筒転がり疲労試験による再現性の高い実験手法を構築し、再現試験の途中停止や水素脱離制御により、白色組織はく離に至る素過程を分離・検討した。

その結果、従来注目されていた針状組織はき裂・白色組織形成の直接的要因ではないこと、白色組織はき裂の擦り合わせ面で形成されること、そして旧オーステナイト粒界に沿ってモードI型き裂が水素の関与下で発生することを明らかにしている。また、針状組織と白色組織で形成機構が異なる点を示し、それぞれの形成位置・角度と応力解析結果との対応関係を定量的に評価した点は特筆すべきである。

白色組織を伴うはく離の発生メカニズムを組織学的・力学的観点から多面的に解明し、転動疲労による損傷の理解とその抑制指針に重要な知見を提供しており、学術的・技術的意義は極めて高い。さらに、文献調査や考察も丁寧であり、論文としての完成度も高い。以上より、本論文は俵論文賞にふさわしいものと判断される。

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高炭素マルテンサイト鋼の靭性と延性を確保する上で、低温での焼戻しは重要な熱処理工程のひとつである。この熱処理によって引き起こされる微細組織変化は多岐にわたるが、それらを包括的に理解することは困難を極める。

本論文は、熱量分析、熱膨張解析、その場中性子回折測定、透過型電子顕微鏡観察、三次元アトムプローブなど、多次元的・多角的な組織評価・解析技術を組み合わせて、炭素クラスタの形成、準安定炭化物の析出による固溶炭素量の低下、それに伴う正方晶性の変化、残留オーステナイトに作用する応力状態などに関連する新たな知見の獲得に成功し、低温焼戻し現象の包括的な理解に大きな貢献を果たした。自己焼戻しの影響を避ける実験的工夫が随所になされ、低温焼戻しの影響のみを抽出した高品質で定量的な実験データの獲得に成功したことが本質的な議論につながったことは特筆すべきである。

以上より、本論文では、低温焼戻しに関連した複雑な現象の系統的な解明がなされており、学術的な有効性が高く、かつ、細部に渡り論理の矛盾がない完成度の高い内容であると高く評価できる。よって、澤村論文賞にふさわしい論文であると判断される。

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水素脆化は高強度鋼においてより顕著であるため，高張力鋼板を広範囲に適用するためには，水素脆化特性を改善するための材料設計が必要とされる。微小き裂の発生・成長により生じる破壊は組織因子や強度・変形特性に支配さることから，き裂の発生・伝播と水素や組織因子とのかかわりを理解する必要がある。

本研究では，マルテンサイト鋼の水素脆性破壊に関して，巨視的な破壊特性（J積分値およびティアリングモデュラス（クラック伝播抵抗に対応するパラメータ））をX線CTにより３次元可視化された破面情報から得たクラック伝播形態から定量的に考察している。水素濃度が4.00 wt ppmと高い場合でも，不安定な早期破壊が直ちに生じることはなく，ある程度のクラック伝播抵抗が存在すること，そして三次元的にクラックが連続的に伝播し，クラック開口変位は小さいことを明らかにしている。クラック蛇行を表すパラメータとして，crack-propagated thicknessを新たに定義し，ティアリングモデュラスがcrack-propagated thicknessの増加に伴い増加することから，クラック蛇行がクラック成長抵抗を増大させると結論付けている。

この技術を進化させることにより，組織因子を制御することでマクロな機械特性の制御が可能となる。よって、学術的，工学的に価値が高く，本論文は澤村論文賞にふさわしいものであると判断できる。

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鉄鋼材料の鋳造プロセスでは偏析や割れを抑制する凝固組織制御が不可欠であり、凝固現象の諸過程の理解が求められる。Fe-Ni系やFe-Cr-Ni系合金では、過冷却液体から準安定相の核生成を経て平衡相が固相変態する凝固現象が解明されてきたが、このような準安定凝固現象は限られた合金系のみでの議論にとどまっていた。

本論文では、時間分解X線トモグラフィー・X線回折測定、ならびに熱分析により、オーステナイト相を平衡初晶とするFe-Mn-C合金の凝固現象が調査された。その場観察・回折測定により、過冷却液相から準安定フェライト相が核生成・成長した後に、同フェライト相のオーステナイト相へのマッシブ的変態と残留液相のオーステナイト相への凝固変態が進行する現象を明らかにした。各相変態温度は熱分析でも確認され、準安定相の生成を経た凝固現象が実証されている。また初晶フェライト粒からの微細オーステナイト粒組織の形成も確認された。Fe-Mn-C合金の準安定相の生成を経由した凝固現象を解明する学術的成果を上げるとともに、新たな凝固組織制御手法による鋼材特性の向上の可能性を示し、産業応用の観点でも大きな意義がある。

以上本論文は、先端観察・計測技術を用いて、準安定相の核生成・成長を経由した鉄鋼材料の凝固現象と凝固組織形成挙動を明確化した点において、鉄鋼プロセスの学術的、技術的に価値高いものであり、澤村論文賞にふさわしい論文と判断できる。

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精錬スラグや連続鋳造のモールドフラックスの熱物性の理解は、製造プロセス上極めて重要である。ケイ酸塩融体・ガラスにおける熱のキャリアはフォノンであることが知られ，フォノンの平均自由行程に関する報告も増えてきつつあるが，融体やガラスの熱伝導度の理解に不可欠な同平均自由行程の組成依存性発現機構の普遍的理解がなされているとは言い難い。

本論文では，ケイ酸塩ガラスを対象にフォノンの平均自由行程に及ぼす金属酸化物添加の影響を、系統的に変化させた多くの試料について評価している。まず、ケイ酸ガラス中の熱拡散率や音速を測定し、ヤング率や密度と関連すること示すと共に、PbO添加試料のフォノン散乱の確率がアルカリ及びアルカリ土類ケイ酸塩系よりも低いことを明らかにしている。その結果から、気体分子の平均自由行程モデルをベースとした近似式を提案し、フォノンが非架橋酸素近傍で散乱されることを見出している。一方、ガラスに添加した金属酸化物が網目形成酸化物である場合は、平均自由行程の減少は小さく、平均自由行程が金属陽イオンの構造的役割の理解にも有用なパラメータであることを示している。フォノンの平均自由行程推測モデルはケイ酸塩材料の熱伝導度を高精度に予測できることから組成依存性の普遍的理解とその応用に期待される。

以上より、本論文は学術的及び工業的分野に価値があることから、澤村論文賞にふさわしい論文であると判断できる。

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